俺は営業マンなんですが、休憩時間は自由に設定出来ます。
小雨のそぼ降る中、高尾への顧客事務所への行程半ばにある、
八王子城址跡の砂利道に車を停め、左右の窓を少しだけ開き、
リクライニングしたシートへ横になって眼を閉じていました。
運転の疲れもあり、うつらうつらしてると、
じゃっ、じゃりっ…
玉石を踏み歩く音が近づいてきます。
意識が落ちる前に我に返り、眼を開けずに音だけに注意していました。
音が近づくにつれ、嫌な事に気付きました。
フロントグラスや車体を叩く雨音はするのに、砂利を鳴らす足音の他に傘を叩く音がしない。
その人達は、傘をさして無いんですね。
その内に左手の崖下の笹藪も激しく音を立て、こちらへ掻き分けながら近づいてくるものがあります。
眼を閉じて、聴覚が鋭くなっているせいか、
音を立てる者達が、この車を目掛けてやってくる事がわかりました。
やがて、雨音以外の全ての音が、車のすぐ脇で止まりました。
雨音の中で、俺は眼を開けずに周囲に気を張ってました。
判るんですよ、見られてるのが。
もの凄い数の視線を感じる。
息が詰まる中、眼を閉じながら睨み合いの状態が続きました。
やばいな…逃げられない。
突然、沈黙を破る様におばちゃん達の話し声が聴こえてきたので、
眼を開けて一気にその場を離れました。
全身がびっしょり汗に濡れていました。
あそこがかなり有名な心霊スポットと知ったのは数日後でした。
眼を開けなくてよかった。
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